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電話による世論調査は携帯電話に掛けても結果は変わらないよ

   

世論調査のバイアスに関する言説

メディア各社の世論調査で安倍内閣の支持率が急落していますね。私もご飯が美味しいです。

皆さんは世論調査を受けた事はありますか?私は東京に住んでいる頃に1回だけ固定電話に掛かってきた事があります。電話を取ったらテレビ番組の緊急世論調査と伝えられて、電話口で「あなたは小泉内閣を支持しますか?次の中からお選びください。1.支持する、2.どちらかといえば支持する、3.支持しない、4.どちらかといえば支持しない、5.わからない」と聞かれてパニクりながら「支持しません」と回答した憶えがあります。回答し終わった後にその結果が放映された番組を録画しながら見ました。

ところで、この電話による世論調査について「固定電話を中心に掛けているので回答者の年代構成や職業構成が偏っている」とする言説があります。これによって電話による世論調査は年輩層や自営業を中心になっておりバイアスが存在すると指摘する人もネットで多く見掛けます。しかし、これは本当に正しいのでしょうか?

携帯電話への世論調査は行われているか

最近の大手メディアで行われる世論調査はRDD(Random Digit Dialing)方式が主流です。これは全国の存在する電話番号に対してコンピュータが乱数計算を基にランダムに自動架電(アウトバウンド)を行い、つながった相手とオペレーターが調査内容をヒアリングする方式です。私もコールセンターのシステム開発(CTI)に少し携わったことがありますが、電話RDDにはPD(プレディクティブ・ダイアラー)を導入しているのかと予想しています。

このRDD方式は固定電話を対象にスタートしましたが、大手メディアでは2015年〜2016年頃に携帯電話を含めた世論調査を開始しています。2016年12月時点で日本の携帯電話の契約数は1億6071万件となり、固定電話契約数約3,000万件を大きく上回っています。最近のRDDはこの傾向を反映したものになっています。

NHKは2016年12月から携帯電話による世論調査を行っています。ただし、携帯電話は市外局番が無いため全国調査にのみ限定すると記載されています。

Q.電話法による世論調査の調査対象は、携帯電話も含まれているのですか?

A.2016年12月より、電話法による全国世論調査の一部について、固定電話の電話番号に加え、携帯電話の番号にも電話をかけて調査を実施しています(「電話法(固定・携帯 RDD)調査」)。

なお、携帯電話への調査は、全国を対象としたものに限り、地域を特定した調査では行っておりません。携帯電話では電話番号から地域が特定できないためです。

NHK放送文化研究所 NHKの世論調査について

朝日新聞でも2016年7月から携帯電話も対象とする世論調査を開始しました。しかし、携帯電話は市外局番が無いため、一部地域を対象とした調査では引き続き固定電話へコールすることが記載されています。

朝日新聞社では、2001年4月から内閣支持率などを調べる全国世論調査についてRDD方式に切り替えました。しかし、携帯電話の普及で固定電話を持たない人が若い世代を中心に増えてきたため、2016年7月の全国世論調査から携帯電話に対しても電話をかける方式を導入しました。ただし、携帯電話の番号には固定電話の「市外局番」のような地域情報がないため、一部の地域を対象にする形式の調査では、引き続き固定電話のみを対象にしています。

朝日新聞 「RDD」方式とは

日経リサーチでも2016年4月から携帯電話も含めた世論調査を開始しました。

また、2016年4月から、固定電話だけではなく、携帯電話に対しても調査を実施しています。
近年、各世帯に固定電話をお持ちでなく、携帯電話のみをお持ちの有権者世帯が増えてきています。そのような方々のご意見も聴取する必要があると考えているためです。

株式会社日経リサーチ 世論調査について

産経・FNN合同世論調査は調査方式が公開されていません。

携帯電話の回収率は非常に低い

携帯電話による世論調査はどのような傾向があるのでしょうか。NHK、共同通信社、日経リサーチ、毎日新聞社、読売新聞社、朝日新聞が参加している携帯RDD研究会がまとめた「携帯電話RDD実験調査結果のまとめ」という報告書があります。

携帯電話RDD研究会では2014年9月と10月に乱数番号表に基づく携帯電話への世論調査を合計2回実施しました。第1回では比較的簡易な質問内容で世論調査を行い、第2回ではより実際の世論調査に近い内容で詳細な質問を行いました。また第2回調査では電話を切ろうとする人への軽い説得も行われました。

報告書では、携帯電話へのコールにどれくらいの人が協力してくれたのかを「接触率」「回収率」「協力率」で分類しています。接触率とは全てのコール数に対して電話に出た人の割合を計算したものです。回収率は全コール数に対して調査OKと回答した人の割合です。協力率は実際に電話が掛かった人のうち調査OKだった人の割合です。

第1回調査 第2回調査
接触率 39.4% 46.3%
回収率 12.8% 17.0%
協力率 30.0% 33.8%

回収率は第1回調査では12.8%、第2回調査では17.0%と非常に低い水準となりました。ちなみに今日発表された時事通信社による個別面接方式の安倍内閣世論調査では回収率は65.1%となっています。従来の固定電話の世論調査でも約半数は回答しているので、それに比べると著しく低い回収率であると言えます。

調査は全国の18歳以上の男女2000人を対象に個別面接方式で実施。有効回収率は65.1%。

www.jiji.com

固定電話と携帯電話による回答傾向の違い

固定電話と携帯電話への世論調査では回答内容に違いが出るのでしょうか。携帯RDD研究会による報告書では、固定電話調査と携帯電話調査とで政党支持の比較を行っています。その結果が以下の通りです(二重線で囲まれている部分が携帯RDD研究会による携帯電話調査の結果)。

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携帯電話RDD実験調査結果のまとめ

共産党の支持率が固定電話より携帯電話の方が低いなど若干の違いはありますが、政党支持率の構成は各社の固定電話調査と大きな違いは見られませんでした。携帯電話調査の内閣支持率も固定電話とほぼ等しく、年金制度への信頼や原発再稼働への賛否も年代構成で見ると固定電話への調査とあまり変わらない結果が得られました。

第1回調査 第2回調査
内閣支持率(1) 51% 44%
内閣支持率(2) 60% 55%

(内閣支持率(2)ははっきりと答えない相手に対して「お気持ちに近いのは、どちらですか」と重ね聞きした場合の結果)

この携帯電話による内閣支持率を同時期の主要メディアの内閣支持率と比較した表がこちらです。

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(内閣支持率について携帯RDD研究会の調査とメディア各社の世論調査の比較 携帯電話RDD実験調査結果のまとめ

読売・毎日の独自調査でも携帯電話層と固定電話層の回答傾向の違いは確認できなかった

他の調査では、読売新聞東京本社 世論調査部の福田昌史氏が『政策と世論』に「電話に“出ない人”は調査を偏らせるか」という論文を発表しています。ここでは読売新聞が郵送で世論調査を行い、普段電話に出るかどうかと8問246項目の調査を行いました。以下は、固定電話・携帯電話に出る人の回答(水平軸)と全体の回答(垂直軸)を散布図にしたものです。どの点も水平軸と垂直軸が同じ値をとる45度の直線の近くに分布しています。

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電話に“出ない人”は調査を偏らせるか

データは公開されていませんが、毎日新聞が行った調査でも携帯限定層(携帯電話しか電話番号を持たない人)とそれ以外の調査結果では、ほとんど違いが見られなかったと記載されています。

現在、携帯電話しか持たない人が電話世論調査の対象に入っていないことは調査結果にゆがみをもたらしているのか。毎日新聞社は昨年実施した時事問題に関する郵送式の世論調査で、携帯電話と固定電話の保有状況や使用状況を聞いた。携帯電話しか持たない「携帯限定層」は14%で、うち77%が20〜40代だった。この「携帯限定層」を含めた調査結果と除いた調査結果を比較したところ、政治や社会に関する意識に違いはほとんど見られなかった。したがって、今のところ携帯限定層が固定電話調査の結果に偏りを生じさせてはいない。しかし、情報通信白書によると、2013年度の携帯電話(PHSを含む)加入者は固定電話加入者の5倍となり、今後も携帯限定層の増加が見込まれ、偏りが無視できなくなることも予想される。

毎日新聞 世論調査 携帯電話・スマホにかける実験 本社など

まとめ&世論調査に関する陰謀論

世論調査に関して携帯電話に掛けても固定電話との大きな違いは確認できていません。ライフスタイルが固定電話から携帯電話へ移行しているので今後も携帯電話も含めた世論調査を行っていくべきですが、そのことによる世論調査結果への影響は現状では限定的と考えるべきでしょう。

なぜ固定電話でも携帯電話でも同一の回答傾向になるのかは今後分析していく必要がありますが、そのことと「携帯電話に掛ければ世論がより実態に近づける」という言説には根拠がないことは別次元の話だと思います。また、携帯電話による世論調査は回収率が極端に低く、現状は地域を指定して携帯電話へ掛けるのが困難なので、地域を指定した調査などでは市外局番がある固定電話に依存せざるを得ません。

NHK世論調査部の原美和子氏と中野佐知子氏が発表した「世論調査で探る「世論」と「世論調査」」という論文では、NHKが行った「世論調査に関する世論調査」の結果が掲載されています。このデータを見ると20代〜30代では世論調査への関心が大きく薄れています。

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世論調査で探る「世論」と「世論調査」

この調査では世論調査について以下の質問で「そう思う」から「そう思わない」までの五段階の意見を聞いています。

1 世論調査は人々の意見を公平に反映している
2 世論調査の結果はマスメディアに操作されている
3 世論調査の結果は政治家に操作されている
4 世論調査の結果には納得がいくことが多い
5 世論調査は多様な意見を伝えてくれる
6 政治家は世論調査の結果に敏感であるべきだ
7 重要な政策の指針は、そのときどきの世論調査の結果にあまり左右されないほうがよい

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世論調査で探る「世論」と「世論調査」

20代や30代ほど「世論調査の結果はマスメディアに操作されている」「世論調査の結果は政治家に操作されている」という考えを持っている人が多くなっています。

確かにそのような面がある一方で、最近のRDDに関する研究では携帯電話限定で架電しても結果が変わらないなど俗説を否定する調査結果が出てきています。世論調査の統計としての特性を押さえながら、世論調査をうまく活用していくリテラシーが問われているのかと思います。

産経・FNN合同世論調査は調査方法が公開されていないのでよく分かりません。毎回回答者数が1,000人(n=1,000)なので何らかの抽出への作為が行われているのだと思いますが…。

マンガでわかる統計学

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